日本では東京オペラシティアートギャラリーが2000年に本格的な展覧会を催したのをはじめ、東京のギャラリー、ワコウ・ワークス・オブ・アートが幾度も個展を開いています。
今回、ワコウ・ワークス・オブ・アートにて開催される7年ぶり4度目となる新作展「The Spill」では、コマ送りのように次第に傾いて中身を徐々に流出させていくティーカップを描いた三点組の作品《Teacups》、最終的には全壊したシカゴの集団住宅の模型を描いた《Model》、人形の頭部を描いた《Head》を展示。
アメリカのアーティスト、ケリー・ジェームズ・マーシャルと共同でアニメーション作品をつくるというコラボレーションのプロジェクトをきっかけに生まれた《Teacups》の三連作は、タイマンスの典型的な映像の要素を備えつつ、これまでの作品に共通する静けさの感覚が弱められ、その代わりに激しい動きが描かれているという点で、きわめて異質の作品といえます。
また、さまざまな建築物をモチーフにしてきたタイマンスですが、今回の最新作《Model》ではその名の通り模型を描き、《Head》では、人物の頭部を極端に拡大して描くという過去の作品で頻繁に見られた手法を踏襲しながら、人間を模した壊れた人形を描いています。
いずれの新作も、これまでの多くの作品に見られた要素を備えながらも、それらにクロスするように新たな謎が吹きこまれており、作家の新たな方向性について示唆するものとなっています。
さらに、3月23日(土)と24日(日)に東京ミッドタウンにて開催されるアートフェア 「G-tokyo 2013」 でも、リュック・タイマンスの最新作《The Barrel》が展示されます。本作は《Teacups》と同じく三点組の連作ですが、銅版に油彩という手法を用いた独特の質感と外観が、この作品の題材が喚起する土や油や金属といったイメージを強化しています。
23日にはタイマンスが来場し、出版予定の書籍「流出」を記念したサイン会が行われます。
見るものの深層意識に時間をかけてゆっくりと染み入り、記憶を揺さぶり、イメージの痕跡を刻むリュック・タイマンス作品の新たな展開を、この機会にぜひご覧下さい。
「The Spill」展
会期: 2013年3月23日(土) ~ 5月2日(木)
会場: ワコウ・ワークス・オブ・アート
現代アートフェア G-tokyo 2013
会期:2013年3月23日(土) ~ 3月24日(日)
会場:東京ミッドタウン
リュック・タイマンス(Luc Tuymans)
1958年ベルギー・モルツェル生まれ 。 アントワープ在住。ゲルハルト・リヒター以降の最重要画家の一人と称されている。1992年の「ドクメンタIX」で大きな注目を集めた後、ヨーロッパやアメリカを中心に数多くの展覧会で紹介される。2004年に英国の美術館テート・モダンおよびドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館K21にて大規模な回顧展を開催。2009年から2010年にかけて、サンフランシスコ近代美術館、シカゴ現代美術館などでアメリカ初となる回顧展が開催された。キュレーションも数多くおこなっており、とりわけ北京とブリュッセルで企画・開催したベルギーと中国の作家による展覧会「The State of Things」は高い評価を受けた。